数年前、中学校の合唱コンクールに招かれたときのことです
普段の授業では見せない真剣な表情で、クラス一丸となって歌う姿に胸を打たれました
指揮者や伴奏者としてステージに立つエイメイ生もいて、その一人ひとりが主役の時間でした
そんな中、忘れられない出来事がありました
あるクラスの伴奏中、突然ピアノの音が止まったのです
ピアノ伴奏していた生徒は当時、僕が担当していた生徒でした
指揮も歌も続いていたので「アカペラ部分かな?」と思いましたが、違いました
演奏ミスだったのでしょう
しかし数秒後、その子は再び鍵盤に手を置き、最後まで一音も欠かすことなく演奏をやり抜きました
全ての演奏を終え、自分の席に戻っていく彼女の姿をふと見ると、顔を隠し、肩を震わせて泣いていました
きっと「みんなの前で失敗してしまった」「迷惑をかけてしまった」という思いで胸がいっぱいだったのでしょう
周りから見れば大ごとではなくても、本人にとっては大きな出来事だったはずです
でも、その時に思うことがありました
人生で本当に大切な科目は、英語や数学ではなく
失敗してしまった自分とどう向き合うか
うまくいかなかったとき、みじめさで押しつぶされそうなとき、その経験をどう越えていくか
その過程こそが、やがて大人になったときの財産になります
そしてその痛みは、人を思いやる優しさにもつながっていくのです
心の傷は、やがてかさぶたになり、強さへと変わります
先日、その伴奏をしていた子に偶然声をかけられました
「づかっちですか?」と
振り向くと、彼女が小さな子どもを連れたお母さんになって立っていました
少し話をして、別れ際にふと見たその横顔は、あの時の涙とは全く違う、強くて優しいお母さんの顔
そして彼女が言った「幸せです」という言葉が胸に残りました
あの日の涙も、あの日の悔しさも、全部が今の彼女をつくっている
そう思わせてくれる、忘れられない出会いでした
