
タープを張って、炭を起こして、肉を焼く。ただそれだけのことなのに、なぜかいつもより笑いが多い。キャンプってそういう場所だと思う。日常のノイズを全部そぎ落としたとき、残るのは火の前に座る人と人の距離の近さだ。
スマホを置いたら、声が増えた。
家にいるとき、気づいたらそれぞれが画面を見ている。それが「普通」になりすぎていて、誰も疑わない。でもキャンプ場に来ると、不思議と自然にスマホを触らなくなる。電波が弱いせいもあるけど、もっと単純に「見るものが他にある」からだと思う。
「ねえ、あの鳥なに?」 「なんかあの雲、すごくない?」 そんな他愛もない会話が、気づけば止まらなくなっていた。
テレビもYouTubeも何もない空間で、会話の代わりをしてくれるのは焚き火と風の音だけ。それがむしろ、言葉を引き出してくれる気がした。火を囲んでいると、なぜか素直に話せる。
「いつもと違う」は、発見の入口だった。

BBQコンロで焼いた肉は、家で食べるより確実においしい。これは気のせいじゃないと思っている。炭火の火力、外の空気、少しの疲れ、それから「自分で火おこしした」という達成感。全部がスパイスになっている。
朝、テントから這い出てコーヒーを一杯飲む時間。ランタンを吊るして夜の食卓をセットする時間。キャンプはいちいちに「初めてじゃないのに初めてみたいな感覚」がある。ルーティンが崩れるだけで、こんなに世界の解像度が上がるんだなと思った。
でも、雨の片付けは二度とごめんだ。
正直に言う。最高のキャンプだった。夜の焚き火も、昼のBBQも、火を囲んだ会話も、全部よかった。ただひとつを除いては。
撤収当日、雨。テントもタープも濡れている。チェアもテーブルも全部しっとりしている。全部を濡れたまま車に積み込んで、帰ってからまた全部広げて乾かして……。あの作業の絶望感は、キャンプを愛する者だけが知っている。
雨の中のキャンプ「中」は風情があっていい。でも「片付け」はだめだ。完全にだめだ。次から天気予報は3日前から毎日確認することをここに誓う。
スマホのない時間が、こんなに豊かだとは思っていなかった。 非日常が、こんなに日常を照らすとは思っていなかった。 雨の撤収が、こんなに地獄だとは……知っていた。
晴れの日に、また行こう。

